「うーん、でも、ハスミの家に行くのには、それ相応の覚悟と準備が必要だからなぁ……」
早速、ふわふわの生地にナイフを入れていた私にケイが悩ましげな様子で呟く。
「何? 覚悟と準備って」
聞きながら、メープルシロップをかけたパンケーキに添えてある生クリームを付けて口へ運ぶ。甘くて柔らかくて、一瞬で至福の時となる。
ケイも食べればいいのに。もしかして甘いものが苦手なのかな。
「そりゃあ……ハスミのご両親に挨拶する訳だから、色々とね」
意味深に笑う彼。私は眉を寄せ、首を傾げた。
「君は何の挨拶をしようとしてるのかね?」
なんとなく言いそうな答えが頭に浮かんでいるが、さすがにそんな可笑しな考えはしないであろう。という、私の常識を笑って蹴飛ばすのがケイだった。
「もちろん、生涯のパートナーとして挨拶するつもりだよ」
生涯のパートナー?
それすなわち、結婚という意味か。
「いやいや、重い! ただ漫画読みに来るにしては重すぎる!!」
というか、そんなこと口走ろうもんなら、お父さんが黙っていない。
あの人は相手が子供だろうと一切妥協しない。今みたいな冗談まじりの言葉を、そのままの意味で受け取って、真っ向から対立しようとするだろう。


