ギロッと睨む私に、口をつぐむケイ。私は軽く溜め息を溢して視線をそらす。

「そうよ……悪い?」

 顔が尋常になく熱い。そして、隣から送られる視線も。あぁ、嫌だ。これじゃあ、私が今まで蔑んできたバカップルそのものではないか!

 なんと恐ろしい悪魔のような男。私が忌み嫌っていた類いの彼女に変貌させる呪いでもかけたのだろう。

「ううん、全然」

 きっと、そうに違いない。

 彼の笑顔が眩しく見えるのも、心が浮き立つのも、素直な気持ちが出てしまうのも、彼の所為だから。

「むしろ、愛されてるなぁって感じる」

 本屋に向かっていた足が止まる。

「ケイっていじめられるのが好きなの?」

 それってドMじゃん。

 真偽を問う目を向ける私に、ケイは変わらず笑っている。

「ハスミ限定でね」

 私がドSみたいな発言は止めてほしい。

「じゃあ……これから一生、ケイに冷たくするね」

 私は断じてSではないのだから。

「それは俺が一生ハスミの隣に居られるってこと?」

 どっちかと言えばケイの方だと思う。

 言い返す言葉が咄嗟に出てこなくて顔をしかめる私に、彼は珠玉の笑みを惜し気もなく向けてくる。勝者の余裕というやつか。

「今からの一生はきっとすごく嫌になるくらい長いだろうから期待はしないけど、本屋には行こう。それから喉が渇いて、糖分も欲しているからカフェにも」