「チケット代、ちゃんと払うよ」
「いいから、彼氏に甘えてなさい」
映画館のフロアから降りて訴える私に、彼は満足げな表情で私の頭をポンポンする。
私が財布を出す間もなく払い終わっていたケイの変な器用さは、なんとも厄介なものだ。
そりゃあ、私はバイトしてないけど、両親の店の手伝いをして、報酬とまでいかなくともお小遣いをもらっている。
納得はいかない。でも……
「うん、ありがとう、ケイ」
いつにも増して機嫌が良く、礼を言っただけで尻尾を振る犬みたいに嬉しそうな顔をするケイが可愛くて仕方ない。
「映画までの時間、どうする?」
ケイの手を繋いで顔を見上げる。一瞬目を見張って頬を赤らめた彼が目尻を下げて笑う。
「今日一日ハスミを独り占め出来るってだけで俺は満足。……はぁ、幸せ過ぎる」
「はいはい。じゃあ、私、本屋に行きたいからついてきて」
まともに相手をするだけ、無意味に時間が経っていく。「私も幸せ」なんて、口が裂けても言えるものか。
「ハスミは恥ずかしがると冷たくあしらう癖があるよね」
何も答えない私と繋いだ手を、ケイが勝手に恋人繋ぎにした。
「実は何気に喜んでいる証だったり?」


