隣から聞こえた彼の声で、目の前の券売機に目を戻す。
「あぁ、えっと……」
しばらく来ない内に、カウンターでチケットを買わずに券売機を使うようになっていたことに多少驚いた。
ポップコーンの匂いが充満する中、母親に連れられた子供が走り回る騒々しさや、上映の時刻を知らせるアナウンスが少し懐かしく感じた。
トクラと最後に来たのは中学二年の終業式の日以来だ。券売機の画面に映る作品の名前はどれも知らないものばかりだった。
初デートでいきなりマニアックな映画は、さすがのケイでも引いてしまうんじゃないかと思い、こうしてシネコンに来たはいいが、どれを観れば良いのやら。
服装や化粧、デートの心意気をハルちゃんからアドバイスされたが、肝心の“映画何観る問題”をスルーしていたようだ。
隣の様子をチラッとだけ見る。
画面ではなく私を見つめる笑顔は、聞かずとも「ハスミが選びな」と言っている。
後ろでは何人かが列をつくって待っているし、悩んだところでどんな内容なのか、タイトルだけでは分かりかねない。
どうしよう……と困っていたけど、一つの作品に目がいった。
つい昨日、ハルちゃんが観たいと言っていた作品だったと思い出す。
「これ観たい。良い?」
ケイは頷いて、タッチパネルを操作していく。とりあえず、これでチケットが取れたし、ハルちゃんに感想を教えることもできそうだ。


