人目を避けようと歩き出した私の意思とは反対に、腕が後ろへ引っ張られた。
よろめいた私をいとも容易く受け止める彼を見上げたら、この上なく憎たらしい余裕の笑窪が現れていた。
「すごく可愛いよ。もちろん、いつものハスミも可愛いけど、今日のハスミも可愛い。その綺麗な脚を舐めまわして、頬擦りしたいくらい」
私にだけ聞こえる声量で、とんでもないことを吐き出す口を閉じてしまいたい。ガムテープでも何でもいいから、きつく、頑丈に!
「普通に気持ち悪いし、引くわ」
言葉のままの表情を向ける私だけれど、彼には関係ないらしい。余計に笑みを深めて、更には私のお腹辺りに腕を回してきて、後ろから抱きつくように身を寄せた。
「ん? だって俺の彼女が可愛すぎるんだから、仕方ないよね。正直このまま映画を観ずに、誰の目にもつかない所へ連れ去りたいし、俺だけに見つめられて恥じらう姿を見せてほしい」
ぶっ飛んだ思考は今に始まったものではない。こういう愛情の表し方をする奴なのだと受け入れ始めている私が変になっているのかも。
「うんうん、分かったから離れようね、ケイくん?」
しかし、暑苦しく引っ付かれるのは遠慮したいものだ。私は人の良い笑顔を浮かべ、彼の腕を力一杯指でつまみ上げた。
彼は彼で、初めはやせ我慢をして何でもないと笑っていたが、数秒も待たずに「暑いから中で涼もうか」と身を引いたのだった。


