教室に入って、その涼しさにほっとする。隣にいたハルちゃんもそんな顔をしていた。

「ねぇ、ハルちゃん」

 自分の席に戻ろうとする彼女を引き止める。ハルちゃんは「ん?」と小首を傾げる。

「今日、予定とかある?」

「予定……は、特にないよ。どうしたの?」

 よし。ひとまず安心。

「あぁ、この後ケイと約束あるんだけど、なんか用事があって教室で待っててほしいみたいなの。一緒に待っててくれないかなぁって」

「もしかして、それってデートってこと?」

 キャー! と、両頬を押さえて興奮気味なハルちゃん。それから、嬉しそうに私の手を力強く握ったかと思えば、「まだ二人のこと聞けてないから教えて!」好奇心に満ち溢れた目をキラキラさせていた。

 そんなに面白いものでもないんだけどな。時間稼ぎには良いか。

 担任が入ってきてハルちゃんが席に戻っていく。直当たりの冷風が今度は寒い。汗をかいたから余計に。先生の話を聞きながら、前髪をいじる。

 今日もケイはバイトだろう。約束なんてしていない。ついでに夏休みにも。

 ……いかん。ネガティブになっては。

 ハルちゃんの方へ目を向ける。私の視線に気付いた彼女が暢気に笑う。

 ハルちゃんにとって、今日は忘れられない日になるだろう。きっと、そうだ。堀江君ならうまくやるに違いない。