「ケイ」
今日の授業が全て終わって廊下に出ると、いつも通り私を待ってくれているケイの姿があった。私の呼び掛けにちらっと目を向けた彼は、すぐに背中を向けて歩きだしてしまう。
これは相当いじけてしまっている様子。
「いつになく拗ねてんなぁ、アイツ」
側にいたリョウスケが同情の眼差しで私を見ながら言った。
「まぁね。リョウスケは今日もバイト?」
あの面接ごっこが功を奏したのか、リョウスケは無事に受かり、駅前のカラオケ屋でバイトしていた。
少し離れた所にいるケイとあまり距離を開けないように二人で歩く。
リョウスケが「そうそう。はぁ、しんどい……けど今日は舞さんがシフト一緒だから頑張ろ」と項垂れながら言う。
舞さんとは、同じカラオケ屋で働いていて、リョウスケを指導してくれる一つ上の先輩らしい。
優しくて、しかも美人という舞さんは、奇しくも彼の妄想(彼女をつくる)を叶えてくれる人だと、ダイやケイを入れたクラスの友人一同でバイト先へお邪魔しに行った誰もが思ったと言う。
本人は自覚がないのか、首を傾げてばかりだけど。
「仕事って大変? クレームとかあったりするの?」


