「もうギブアップしたのか?」

 廊下から教室内に入った途端にかけられた声。その声の主に近付いて、そいつの胸倉を掴む。

「何だって? もっぺん言ってみ?」

「す、すんません……何でもないっす」

 ったく、リョウスケはいちいち余計なことを言わないと気が済まないんだから。

「俺の許可なくハスミに触れるなんて……許さない」

 どこからか現れてきたケイにリョウスケが「いや待って、何で!?」と、本気で怯えるように肩を竦めて弁解を始める。それを傍らで見ながらケイの席に座ってお弁当箱を開ける。

「ハスミちゃん、大丈夫なの? 二人が……というより、谷君が」

「ハルちゃん、こっち。ここ空いてるから、この席使わせてもらって」

 隣から椅子を引っ張って手招きすると、じゃれ合う二人を気にしながらハルちゃんも隣に腰を下ろした。

「私、いいのかな。違うクラスなのに……」

 無遠慮に弁当を食べる私に向ける言葉ではないと気付いたのか、途中で言葉を区切り、「なんか自由だね、ここ」と、じゃれ合いの中へ新たにダイが加わったのを横目に半ば呆れて呟いた。

「ケイ達が良いって言ったから良いんだよ」