「ご、ごめんなさい……私、ハスミちゃんを無理やり引っ張ったりして」
校舎を出て、中庭に着いた瞬間に離れた手。振り向いたハルちゃんは、私と目を合わせる間もなく頭を下げていた。
さっきの威勢はどこへやら……と思うのも二度目かな。
「いや、逆に、こっちがごめんって感じだけど。部活終わる時間知らなくて、いきなり来ちゃったし。邪魔しないようにって思ってたのに、結局こうなっちゃったし」
後で楓先輩や他の部員の子達に、ハルちゃんが悪く言われないと良いのだが。
ハルちゃんは私の心配を察したようで、首を横に振って「元々自由な部だから、途中で帰ったり来たり、ていうのは普通なの」と言ってくれた。
そっか、と返す私。ハルちゃんはうん、と頷く。そして、そこから始まる沈黙。
前まで、どう話してたっけな。
こういう時、口下手な自分が嫌だ。
伝えたいことは沢山あるのに、言葉になって出てこない。
いや、しぼり出すしかないだろう。
「最近、嫌な事とかない?」
やっと出た言葉。私には“遠回し”だとか“配慮”だとかいう類いが苦手を越えて不可能なのだと思い知った。
「……ないよ、大丈夫!」
強張った笑顔が、見えない壁を私に作る。
大丈夫って、なんて不便な言葉だろうか。
多分、私も無意識に使っている。その言葉に幾つも感情を隠して、殺して。


