変わった人だなぁ、とある意味で感心していた私と先輩の間に、急に割り込んできた誰かの手。
「楓先輩にはハスミちゃんを渡しませんから!」
ハルちゃんから出たとは思えないほどはっきりと、意思の通った口調。先輩との信頼関係のおかげなのか、はたまた、それくらいヤバいことをさせられるのか。
どっちにせよ、私は何にも言葉が出てこないで、呆然と立ち尽くしていた。
「あらま、あのハルちゃんが私にそんな口を利くようになるなんて……!」
口を手で覆う先輩の表情は怒っている訳でも悲しんでいる訳でもなく……どことなく、面白がっているように見えた。
それをハルちゃんも感じとったのだろう。感情を隠すこともせず楓先輩を睨み付けて「失礼します!」と私の手をとって部室から飛び出た。
前にもあったな、同じこと。彼女に引っ張られ、蒸し暑い廊下を歩かされながら思う。
その背中が、不意にぼやけた。目を拭うと溢れ出た涙に戸惑い、そして気付かされる。
どれだけ強がったって、本当は怖くて仕方なかったのだ。彼女に真正面から拒絶されることが。
助けるとか、守るとか、そんな御託を並べたって、私は結局ハルちゃんの手を引く度胸がなかった。
だから、こうして私の手を繋いでくれるハルちゃんの手を、ずっと待っていたんだ。この柔らかくて、小さな手を。


