私が現れてから静まり返った部室には、時計の秒針だけが痛々しく鳴り響く。

 私とハルちゃん以外の茶道部の四人が固唾を飲んで立ち尽くしていたけれど、その内の一人の溜め息が静寂を壊した。

「ハルちゃん、今日はもう帰っていいよ」

「楓先輩……あの……」

 困惑したハルちゃんの震えた声。楓先輩と呼ばれた人の上靴の色が二年生のもので、あとの三人が私たちと同じ色だから、茶道部の部長なのかもしれない。

 私が来たことで彼女の大好きな部活まで邪魔したくないと開きかけた口を、楓先輩は目で制した。

 つり上がり気味の猫目にじっと見つめられてたじろぐ私に、先輩は……

「あなた、男装に興味はおあり?」

「…………はい?」

 いきなり私の全身をなめ回すような視線を向けてきて、両手をかなり強い力で握り締めていた。

 呆気にとられる私に、同情を含んだ部員三人の「また始まった」という声が届く。

「今うちのハルちゃんをあなたに借す代わり、あなたを私に借してほしいの。もちろん変な風にはしないわ。あなたの本来あるべき姿にしてあげる。ね、良い交換条件でしょう?」

 はいと首を縦に振らなければならない圧が、どこからともなく楓先輩から送られてきているようだ。