せっかく食べてたカレーパンをダイに取られた。

 というより、誰が死にかけてるだの言ったんだ。軽い熱中症だってのに。

「もう大丈夫なんやーい。返せ、私のカレーパン」

 私が手を伸ばすと、ダイは疑いの眼差しを向けてカレーパンを持つ手をヒョイと上げた。

「いんや、俺には分かる。分かっているぞ。お前は皆に心配かけまいと必死に明るく振る舞って……何て健気なんだ。ぐすっ。でも、そんな無理をしてカレーパンを食べなくて良い。俺が食べてやるから」

 涙を拭う素振りをしているけど、光るものなんてどこにもない。カラッカラッに乾いている。

「いや、自分が食べたいだけかよ」

 取り返そうと手を出しても、かわされてしまう。病み上がりのその健気な私に、何て仕打ちするんだ。このジャイ○ンもどきめ。

「ダイ、その辺で止めなよ」

 シャーシャー威嚇する私を全く相手にしないダイをケイが静かに窘め、カレーパンを取り返してくれた。

「なんだよ、ちぇっ。ハスミを甘やかし過ぎなんじゃねぇの」

「あんたはただカレーパン食べたいだけでしょうが」

 ケイの後ろに隠れながら言ってやって、急いでカレーパンを口に頬張った。