口を手で覆う。私の唇は特に手入れもされていなければ、ぷっくりした形の良いものでもないのに。

「ね? お願い、ハスミ」

 うるうるした目でケイに懇願されて、それをどうすれば拒否出来るというのだ。

 迷う私に、ジリジリと距離を詰めるケイ。この可愛い顔をした悪魔に抗うことなど不可能でしかない。

 自転車の籠の所に上半身を乗せるようにして、私に顔を寄せる彼の物欲しそうな切ない表情。しかし、ギリギリの所で止まる。困惑していると、

「ハスミからじゃないと、意味ないから」

 なんて、意味不明なことを言って、目を閉じた。

 何それ!?

 何でそんなに可愛いの?

 麗しく直視しがたい彼のキス顔とやらに、私の顔は沸騰寸前。

 今は周りに誰も居ないけど、いつ誰かがやって来てもおかしくない。キスするところを見られるのは嫌だけど、ケイのこのキス顔を見られるのはもっと嫌だ!

 混乱しきっている頭が私を追い詰め、心臓の音しか聞こえなくなった。

 私は慎重に、おずおずと彼の唇を一直線に目指して、彼が目を閉じているのを再度確認してから、一瞬だけ唇が触れるキスをした。