これ以上、ケイの甘い言葉を平常心で聞き続けられる自信がなくて、話を逸らした。

「……うん。アメリカから日本に英語の教師として来て、日本人のお祖父さんと結婚したんだ」

 あれ? と思う。一瞬だけ言葉を詰まらせたケイ。そういえば、サラさんのこともだけど、家族について彼が話すことは今まで皆無だったと気付く。

 もしかしなくても、話したくない話題だったかな。

 そう考えると、お弁当を作っているのがサラさんだとしたら、お母さんのことが気になるし、おばあちゃんのことは名前で呼んで、おじいちゃんのことはお祖父さんって呼んで……って、駄目だ。さすがに私が突っ込んでいい話じゃない。

 でも、気になる。

 いいや、駄目。私だって、聞かれたくないことだってあるんだし……と、葛藤していた私の心を見透かしたように、彼が口を開いた。

「俺の母親は、俺が六歳の時に死んだ。だからサラと一緒に住んでる」

「え……っ」

 ごく自然なことのように話したケイは、私の反応を予想していたのか、可笑しそうに笑う。……けど、それが本当に可笑しくて笑ったのではない。笑うしかないのだ。

「大丈夫。六歳だったけどさ、ほとんど母親の記憶がないというか、覚えてないんだよね。だから悲しいとか、恋しいとか、まるっきり無いんだ。サラが俺にとって母親で、姉弟で、友達みたいな感じ」