「ハスミ」

 ケイの声で自分の名前を呼ばれる。それだけでドキッとした。振り返った私の手をケイが繋いで、自分の方へと引き寄せた。

「ケイ……?」

 近くなった距離。無言で私を見つめる彼が、今、何を考えているか、その目から探ろうとしても私にはやっぱり分からない。ただただ、顔に熱が集まってきて、居たたまれない気持ち。

 何を言ってほしいの?

 何か言ってよ。

 繋がれた手を少しだけ強く握る。

 離してほしくなくて。

 離したくなくて。

 余裕がなくなると、すぐにキツイ口調になってケイを傷付けてしまう。……謝らなくちゃ。そう思って開きかけた口は言葉を出す前に、また閉じることになった。

「俺の知らないハスミを、俺じゃない奴が知ってるのは気に入らない」

 それは当然なことだと言うようなケイに、私は呆れて何も言えない……と同時に嬉しくて口角が上がる。

 ケイのこの独占的な所が、私に安心感を与えてくれるのだ。

「前に、リョウスケとお昼食べた時、家が小料理屋やってるって話して、ただそれだけだよ」

 あ、そうだ。あのことも、この流れに便乗して聞いちゃおう。

「それで、ケイもさ……そのサラさんって誰なの? もしかして、か、彼女……とか?」