「あれ、ハスミ? 黙っちゃったけど……美味しくなかった?」

 不安そうに私を覗き込んだケイ。

「……違う。美味しすぎて感動してるの、猛烈に!」

 何で美味しいものって、すぐに口の中から無くなっちゃうんだろう。喉を通りすぎっていった照り焼きを惜しみながら、ケイの方に振り向いた。

「ほんとの本当に、美味しかった!!」

 お世辞とか、そういったもの一切関係なく、すごく美味しい!

 鏡を見なくとも、今の自分の表情筋が緩みまくってるのが分かる。そういえば、ケイもお弁当を食べる時はいつも上機嫌だった。

 そりゃあ、こんなに美味しいお弁当を作ってくれていたら、そうなるのも頷ける。

 舌に残る余韻に浸る私に、ケイは嬉しそうに頬を綻ばせた。

「そう? 良かった、喜んでくれて。きっとサラも、ハスミが美味しく食べてくれたって聞いたら嬉しがるよ」

「…………え?」

 強まっていく雨が、花菖蒲の色を白く霞ませる。

 緩んでいた頬が、だんだんと強張っていくのを感じる。

 何故だか急に体温も下がっていくみたいで、ケイの優しい笑顔から目をそらした。いや、というより、今の私の顔を見られたくなかった。