「ちょっと、ケイ!」
「ははっ……美味しそうで、つい」
「ついってねぇ!」
「でも、すごい美味しかったよ」
悪びれる様子のないケイに、やれやれとため息を吐く。それから、こういうケイの無邪気さを可愛く思ってしまう、彼に甘い私にも。
「じゃ、ハスミ、この鶏の照り焼きあげる」
ケイはそう言って、一口大にカットされたそれを、私の弁当箱の中に入れてくれた。
冷食の物ではないタレの輝きに、口の中で唾液が溢れるのを感じる。さっき見た時に、目を惹かれてはいた……けど。
「え、でも、何か悪いし……」
ケイのお母さんは食べたい盛りの彼を思って作ってくれたんだろうし……でも、すごく美味しそう……いや、これはケイの為の……食べてみたい……ダメダメ……。
「いらない? ……そっか」
残念そうな声と、近付く箸。
照り焼きをケイの箸が掴みかけた時、しかし、それは何も無いところをかすめただけだった。
彼のきょとんと丸くなった目が、自分の箸と照り焼きを交互に見つめる。そしてまた、彼は慎重に狙いを定めて……素早く箸を振り落とし、獲物を取りにきた!


