ガラララァァァ!!

「おはようございます!」

シーーーーーン…

誰もいないオフィスに1人

壁に向かって叫んだ

とくに取り柄もなく、

オシャレでもないのにアパレル会社で働いてしまって

地味眼鏡で

一緒に通勤する彼氏もいない

悲しい私、澄川 椿 23歳

今日も運命の出会いを探して笑顔でやってます


…あれ?

私の机って1番隅っこじゃなかったっけ?

しかもこんな豪華な机…

何かあるのかなぁ…

また今日も理想の彼との出会いはなく、

いつもの日々がきた

さぁ仕事仕事!!

今日も頑張るぞー!!


「おはようございまーっす!」

顔立ちの良い、

私と同じくらいの歳で

黒髪の見たことない人がきた

しかも既に遅刻…

ダレなんだろう…?

ガタッ!

いきなり課長が立ち上がった!

いつもは怒っててみんな恐れてる存在なのに

どちらかと言えば

今日は課長の方が慌てててビックリした

「あぁ…!百瀬!遅刻したが大丈夫か?」

えぇ!?課長はいつも遅刻なんて絶対に許さないのに?

「ただの寝坊ですね」

誤魔化さずに応えるとか…

バカだな…

「そうか…なら良かった…」

課長が遅刻を怒らない?

なんで?

なんで?

なんで?

「コイツは社長の息子で近々この会社の跡継ぎになる予定だ。」

えぇぇぇぇぇぇぇ!

わたしの理想の顔立ちで理想の関係

…これって運命かも?

なんて心のどこかでこっそり思ってしまった…

私なんかを相手にしてくれるはずないのにね…

自分で言って自分で悲しくなってきちゃった

「それで今日からこの会社に入社してどんな感じなのかを知ってもらおうと思っている」

うんうん!

課長も怒らないし

新人(いずれ社長)さんもきたし

なんかこれもこれでいい感じかも?

「えっと…自己紹介をお願いしてもいいか?」

「あ!いいですよ!」

「えと…俺は百瀬 昴 22歳です!この前大学卒業したばっかだけど頑張りますっ!」

ちょっとチャラい感じだけど真剣に挨拶してた

「デスクは澄川の隣に用意しといた」

あぁ!それでこの机!

「じゃあ今日からよろしくな百瀬!」

「はい!よろしくお願いします!!」

デスクの方に歩いてきた!

あ…ぁ…えっと…

新人(社長の息子)さんに何を教えればいいの?

「あ、あの…初めましてこんにちは、えと…私の名前は澄川椿です。よろしくお願いいたします」

隣を見てボソボソ。

「あ!よろしくお願いします!」

思った通りやっぱりチャラかった

「ちなみに俺は後輩だから敬語じゃなくていいです!」

「えっと…まずパソコンね、パソコンはここのコンセント使ってね!」

「あ、うん」

「ここの課のコンセントは激戦区だから速くゲットしないと使われちゃうからね!」

「オッケー」

「そしてわかんないことがあったら言ってね!」

「うん」

「わかんないことだらけだと思うけど…」

「そうだな」

「あと…トイレはオフィス内にあるんだよ珍しくない!?」

「それは俺も思った」

「って珍しくないよね会社の構造くらい知ってるよね」

ブフッ!

「今言ったよな」

くしゃっと笑った顔がどこか幼くて面影のある顔だった

「そんなに無理して俺と話さなくていいよ」

笑いながら彼は冷たい視線を送り、私にそう応えた

私って迷惑ですか?

私って邪魔ですか?

私は無理してでもあなたと話したかったんです

これ以上嫌われたくなくて

嫌われるのがこわくて

何も言葉に出来なくなってしまって

ただ一筋の涙が頬をつたった

なんでだろう

初対面のはずの彼から冷たくされると胸が痛くなる

「…ごめんなさい」

震えながらも力を振り絞り

頑張って発した言葉だった

「え…?俺…?」

慌てて私を見つめる昴くん

「ごめんね俺なんかしちゃった?」

違います

って言いたいけど声にならない

私は首を横に振った

「俺、椿先輩に嫌われたくなくてさ」

そう言って優しく私の肩に手を置いてくれた

でも昴くんの顔は悲しげだった

だけど私、嫌われた訳じゃない…?

だよね?

精一杯の思いを言葉に代えて

「私も昴くんに嫌われたくないんですよ」

言った瞬間昴くんは後ろ向いて

「良かった、イヤなことあったら言ってね、俺は人を傷付けやすい人なんで」

なんで後ろ向いてるんだろう?

「そうしますね♪」

私を気遣って言ってくれた言葉に嬉しくなって

顔が熱くなった

こんな紅い顔を見せる訳にもいかないため

仕事についた


少し怒ったような口調で

「あと!!敬語はなしだろ?」

後ろを振り返る

あれ?昴くんも顔紅い…?

「あ!!はい!そうでしたね、ごめんなさい!」

慌てて応えたから敬語は抜けずに空回りしてしまった

「えっ!?////」

私の顔を見て驚いてテレるような昴くん

私なんかおかしいですか??

化粧濃かったですか?

「な、なんですか??////」

既に紅い私の頬が更に紅くなった

「い、いや、椿先輩も顔が紅かったから…////」

少し顔を隠しながらも

微かに見える昴くんの耳は

真っ赤になっていた


クールで

完璧で

かっこよくて

天才で

才能あって

社長(になる予定)で

性格よくて

女子の理想の彼だと思った


けど違った。

クールだけど

完璧ではなくて

かっこいいけど

天才とは言えなくて

どちらかと言えば努力家で

才能もあって

社長(になる予定)ではあるが

親の七光りで

性格いいけど裏がありそうで

理想とは少し違う感じだったけど

いずれ私は


昴くんを好きになりそうな感じだった


その日は昴くんはみんなにとられて

話したくても話せなかった

話したいことも

たくさんあったんですけど

また明日聞くことにしたんです

明日が凄く楽しみで

仕事に対して意欲がわいたのは初めてで

いつも通勤中の出会いを探してたから

仕事は全然好きになんてなれなかった

けど今日からの毎日はとても楽しみで

昴くんに仕事を教えるのが日課でもあり

楽しみでもあった


ガラララララァァァ…

息を大きく吸って…

スゥーーーー…

「おはようございます!!」

いつもの日課の1つである、

朝1番の誰もいないオフィスに叫ぶこと

「あ!おはようございます椿先輩!」

元気よく挨拶を返してくれた

「朝早いんですね」

…あれれ!?

私、今、ものすっっっごく

恥ずかしいことしちゃった?

最悪…

絶対引いた…

「昴くんこそ朝早いんだね!」

話をそらしてどうにか乗りきろう!!

「あ!はい!後輩ですからね!」

そっか…そうだよね…

私、入社したばかりのとき

早く来たりしてたっけ…?

蘇る悲惨な過去…

『初日から時間帯間違える』

『化粧をオフィスでする』

『ほぼ毎日遅刻する』

『無愛想を振り撒く』

何やってたんだろうね私…

なんか今考えると可笑しくて

思い出し笑いをした

ってあれ…?

1人で急に落ち込んだり笑いだしたりして

ホント変人だよぉ…

「…どうかしたんすか?」

キョトンとした顔で見つめる昴くん…

そんな目で見ないで~!!

「思い出し笑いだよ♪」

これぞ営業スマイルだ!!

「先輩…作り笑いがバレバレ過ぎますよ」

苦笑しながら私のデスクの上に

コーヒーを置いてくれた

ダメだなこんな自分

好きになってもらえないよ

私は告白するより

告白される方が好きなんです

でもまだ人生で1度も出会ったことのない

素敵な彼のために頑張ってました

その努力がやっと実る

はずなんだけど私、おかしいかな?

不釣り合いな恋です

「むむむ…バレたか…」

武士みたいな喋り方で

どうにか誤魔化してみせた


朝の会話はココで終了

「せんぱーーい!!」

仕事中に横のデスクから顔を出した

「はーい!なんですか?」

昴くんのノリに口調を合わせてみた

「なんかココわかんないんですよ…」

なんでもできる昴くんができないことを

私ができるのはすごく嬉しい

「あーココね!ココはね…」

この少しの動作の説明も長文に変換してしまう

私の悪い癖

でも昴くんはいつも懲りずに聞いてくれる

他の誰かには聞かずに私だけに聞いてくれる

この特別感が私の心を強くしてくれる

「ありがとうございましたー!」

「いいんですよ♪またわからないことがあったら聞いて下さいね」

今まで誰かにこんなに頼られたことなかった

けど昴くんは

こんな私だけど頼ってくれる


…でも良いことばかり続き過ぎて何か不安