高校三年になって初めて同じクラスになったけれど、ほとんど話をしたことはないと思う。特別気にしたことがなかったものだから、彼がどんな人物か私もよくわからない。けれど、綺麗な顔立ちと長い手足でバランスよく整ったスタイルに加えて、周りの男子たちよりもどこだか大人びていてクールなところが、意外と女の子たちの中で人気があるのを知っている。


雨夜から視線を外して、右手の指先をゆっくりと手のひらに収める。握りしめた拳を見て一度息を吐く。少し疲れているのかもしれない。だって、たかが夢の中の話だ。どうしてほとんど話したことも気にしたこともない雨夜がいきなり夢の中に出てきたのか定かではないけれど、こんなに考えてしまうなんてどうかしている。

自分の考えを一度落ちつかせて、さて勉強モードに切り替えようともう一度顔を上げる。その瞬間、さっきまで机に向かっていた雨夜と目が合った。

それは一瞬のことで、まばたきもしないうちにその視線はそらされてしまった。雨夜のことを考えていたからか、急に心臓の音が早くなる。

彼は私とは正反対の、廊下側一番前の席。クラスメイトに話しかけられて後ろを向いた彼が、一瞬私のほうを見ていた。気のせいかもしれないけれど、目が合った。

席の位置の関係で授業中はほとんど見えないけれど、今人がいないこの状況でならまじまじと彼のことを見ることができる。そうだ、夢の中でもたしかこのくらいの距離だった気がする。毎日同じ教室で同じ授業を受けているというのに、私は雨夜のことをほとんどなにも知らない。


再び前に向きなおった雨夜の背中を見て、私も参考書へと視線を移した。