教室に入ると、まだ七時三十分だというのに十人以上のクラスメイトが机に向かって勉強に励んでいた。

私が通う学校は、このあたりでは一番の進学校だ。高校三年生の夏休み明けともなれば、学年の雰囲気は一気に受験モードへと変化している。一時間目が始まる前にある早朝課外も、私にとってもみんなにとっても当たり前になってしまった。

勉強に集中しているクラスメイトたちの邪魔にならないよう、静かに自分の席に着く。一番後ろの窓際、日あたりのいい席だ。なにより気に入っているのは、なにをしていても誰にもバレない、居心地のよさ。

九月に入っているというのに、まだ残る夏の蒸し暑さを感じて窓を開けると、半袖のセーラー服が軽くなびく。灰色がかったブルーの空。今日はあまり天気がよくないみたいだ。太陽が雲の陰にずっと隠れていて、出てくる気配がない。でも、晴れていない朝の空も嫌いじゃない。それに今日は、天気のわりに空気が澄んでいて気持ちがいい。

三分ほどそうして窓の外を見つめてから参考書を開くのが最近の日課。朝の空気を吸い込むと、スッとスイッチが入れ替わったように勉強モードに入る。今はとにかく勉強するしかない私にとっては、この切り替えの時間がとっても大事なものなのだ。

カバンからペンケースと参考書、キャンパスノートを取り出す。さて今日もやるかと腕を伸ばした瞬間、ふと目に飛び込んできた〝彼〟に一瞬で今日の夢がフラッシュバックする。

その映像はいやに鮮明で、私の心臓がドクドクと変な音を立て始めた。

整えられていない黒い長髪、太陽の下に出たことがないんじゃないかと思うほど白い肌、細くて長い手足、体のわりに大き目のワイシャツ。やっぱり今日の夢は、見間違いなんかじゃなかった。


――雨夜夕雅(あまや ゆうが)。