「良かった……?」

「うん。そう。だって、手っ取り早く麻美は俺の彼女だって知ってもらえたし、もう開き直ってさ、会社でこうやっていちゃつくことも出来ちゃうじゃん」

「な、ちょっと、西宮さん!」

突然、ばっと両手を広げて私を包み込んだ西宮さん。

人気のない廊下とはいえ、いつ人がやって来るか分からない。私は、彼の腕の中から離れようと必死でもがくけれど、彼がそれを許してはくれなかった。

「んー、待って。あと少しだけ。ね?」

お願い、なんて言われてしまっては頑なに拒めない。拒めないし、拒みたくないとも思ってしまっている私は、いつからこんなにも彼に対して甘くなってしまったのだろうか。

どうか誰も来ませんように、と願いながら、控えめに両手を西宮さんの背中に回す。すると、彼が右手で私の髪に触れた。

「確かに、こんなに可愛い俺の彼女を〝おばさん〟呼ばわりしたり、嫌な言い方するのは腹が立つけど、ただ嫉妬してるだけでしょ。彼女達には〝若い〟ってことしか武器がないんじゃない? 若ければ良い、なんて思うそこら辺の男と一緒にしないで欲しいよね」

私の髪に指を絡める彼の表情は、一見笑っているように見えるけれど、目が笑っていない。


「……あの。前から思ってたんですけど、西宮さんって、時々ブラックですよね」