「麻美」
「……はい」
名前をゆっくり顔を上げると、彼が柔らかく笑った。
「こうして泣かせることもあるかもしれない。だけど、一生大事にするから。……僕と結婚してください」
「……はい」
彼の言葉が嬉しくて、また涙がこぼれ落ちる。
彼は、それを指先で拭うと「泣きすぎ」だと言って笑う。だけど、そんなことを言っている彼の瞳も少し潤んでいることは内緒にしておこう。
「本当は、指輪と景色の良い場所も用意してプロポーズするつもりだったんだけどな」
麻美が言いたくなるような可愛いこと言うから、と言って唇を尖らせる西宮さん。
アラサーで、可愛げのないこんな私を何度も〝可愛い〟と言って、こんなにも大切にしてくれる彼は、きっと私に甘い。
だけど、彼と同じくらい彼のことを好きな私だって、彼を甘くしているのだろう。
「これからも、よろしくお願いします。……幸人さん」
「バカ。不意打ちは反則」
結婚を急いでいた私が、今、こんなに幸せで、こんなにも自然に笑みが溢れるような毎日を送れているのは、紛れもなく彼のおかげだ。
〝残り物には福がある〟って、案外本当にそうなのかもしれない────。
終
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