「ねえ」
特に何も話さないままでしばらく歩くと、突然立ち止まった西宮さんが私に向かい合った。
「はい。どうかしましたか?」
私の問いに何も答えることはなく、彼はゆっくり私に近づいた。そして、右手を私の背後に回し、私を抱き寄せた。
「……ちょっとだけ、充電させて」
あんまり話せなくて寂しかった、と言ってきつく、でも優しく抱きしめてくれる彼。だけど、寂しかったのはこっちの方だ。
「西宮さんの方が私を避けてたんじゃないですか」
「ごめんごめん。だけど、二人になるのはちゃんとお父さんに認めてもらえるまで、って決めてたからさ」
会うと気が緩んじゃいそうだったし、と言う彼がそっと私から離れる。
「……私、毎日、家に来てくれてたこと、全然知らなかったです」
「そりゃあそうだよ。だって、言ってないもん。だけど、俺、普通に麻美がいる時にも行ってたよ。お母さんが〝あの子、最近元気なくてご飯食べてないのよ〟って言って心配してた」
彼が私に言わなかったのは、自分の中のけじめをつけるため。そして、きっと、私を心配させないため。
彼らしいな、と思いながら、繋いだままの手をぎゅっと握ると、彼からも同じ強さで帰って来た。
「お父さんがあんな態度とったから、別れることになるんじゃないかって考えちゃって。そしたら、不安になって……」
「それで、ご飯も食べれなかった?」
心配そうに問う西宮さんに、こくり、と一度だけ頷く。

