階段を降りると、リビングから出てきていたらしい母が西宮さんと話をしていた。母は、私に気づくと、にやりと口角を上げて笑う。


「あら、おめかししちゃって」

階段を降りると、母は私の肩をつんつんと指先でつつきながらそう言う。

私は照れ隠しで「そういうこと言うのやめてよね」と言うと、下駄箱から少しヒールの高さのあるパンプスを取り出して履いた。


「あら、お似合い。二人とも、お洒落なディナーデートにでも行くような装いね」

楽しんできて、と言う母に「行ってきます」と伝え手を振る。

「お邪魔しました」

「幸人くん、またね。二人とも気をつけて行ってらっしゃい」

手を振る母を背に、二人で家を出た。


「ごめん。今日、歩いてきちゃった」

歩ける? と言って、西宮さんが私の足元に視線をやる。

ヒールを履いている私のことを心配していることくらいはすぐに分かった私は、「はい」と大きく一度頷いた。


二人で行き先も決めずに歩き始めると、右隣の西宮さんの左手が私の右手に絡んだ。

自然と繋がれた手に、私の口角は自然と上がってしまう。