お姉さんが眉間に皺を寄せる。少し苦い表情をしたお姉さんは、また再び口を開いた。

「その彼女は、幸人が好きなわけじゃなくて幸人の地位と財産が目当てだったみたいで。幸人が居酒屋とか普通のレストランを好むのが気に入らなかったみたいで別れを告げたらしいの。初めから何となく勘付いてはいたんだけど、まさか、そんな事で別れるとはね」

私は、何と返せばいいのか分からず言葉が出なかった。

前に一度、高いお店の雰囲気が苦手で居酒屋によく行くと言った彼が下手くそな笑顔で〝期待はずれだったらごめんね?〟と言ったことがあった。

あの時、いつも本当に楽しそうに笑っていたはずの彼が笑っていなかったように見えたのは気のせいじゃなかったんだ。彼の中には、きっと、消えない傷があったから、上手く笑えなかったんだ。

あの時の彼の気持ちを今更考えると、私は胸の奥がぎゅっと締め付けられて痛くなった。


「あの」

「ん? 何?」

「私、思った事を直球に伝えすぎてしまったり、かと思えば不器用で可愛げがなかったり、こんな女なので、絶対的な根拠はないんですけど……でも、きっと、幸人さんのことを幸せにします!」


つい、勢いでソファーから立ち上がった。すると、一瞬静まり返ったリビングが再び笑い声に包まれた。