夏菜side



 隼人のその言葉に、私は、強く心を揺さぶられた。



 羨ましい。



 1人の女子として、単純に、羨ましい、と思った。


 この世には、こんなにも大切にされる女の子がいるのだ。

 こんなに大切に愛されるなら、ファーストキスくらいあげてしまったっていい。

 どうしてそんな人の手を、本野実希は離してしまったのだろう?



 今さらながらに、フラれたショックが疲れた身体に重くのしかかってきた。

 本野実希との大きな差に、私は泣きそうになる。



「・・・・・・隼人は、どうしたいの。どうやって、実希を守るつもりなの」

「え、そんなの、分からな・・・・・・」

「隼人がッ! ・・・・・・隼人が、実希の心を、もう1度奪うしかないでしょ」

 私は顔を上げて、なかば隼人を睨んだ。
 隼人は顔をそらさなかった。

「でも、多分実希にはもう、新しい恋人がいるし」
「本気で言ってるの?」

 真っ直ぐ隼人を見つめると、根負けした彼はゆっくり顔を横に振った。

「それも、ストレスのはけ口の1つなんじゃないの。
元カノとは中2のとき別れたって、前に言ってたよね。
別れてから今まで、実希に、付き合った人はいなかったんじゃないの。

隼人も実希も、お互いのこと、忘れられないんじゃないの」


 私はまくし立てた。隼人はそれを黙って聞いていた。

 こうなったら、とことん隼人を前に進めるしかない。

 
「私が協力してあげる。隼人が実希を守れるように、私がサポートしてあげる」

「どうやって?」

「隼人は、タイミングを見計らって、実希に近づいてもう1度距離を縮めていけばいい。簡単だ。昔のように、子どもの頃のように、すればいい。

 女子は、なりきるのが得意だ。
 最初は忘れたフリだけど、いつか本当に忘れる。
 隼人との時間が心地よければよいほど、好きになればなるほど、あったことは全て無くなる。

 心配しないで。女子が言ってるんだから、間違いない」



 戸惑う彼を、私は抱きしめたくなった。

 それは、恋心と全く違うことを、私はハッキリ感じていた。


 大丈夫。大丈夫だよ、隼人。


「隼人のためになら、私なんだって協力するよ。
 一緒にがんばろ?」

「・・・・・・うん、ありがとう」








 家に帰って、私はベッドで横になり考えた。

 今、隼人が実希に近づくにあたって、1番の障害はなんだろう?
 
 すぐにその答えは見つかった。



「実希の1番近くにいる男子だ」



 そのとき、私のやるべきことが決まった。