「おいおい、ソウスケ、珍しく興奮してるな。」

マサキはいつもと様子が違う僕に少し驚いていた。

行きつけのバーとやらに向かう途中、今朝社長からあった話をマサキに聞かせた。

「よかったじゃんか、ようやくお前の本来の目的が達成される日がやってきたな。」

マサキも僕と一緒に喜んでくれた。

「ああ、でも急に降って湧いたような話で、まだ実感ないよ。」

「そうだな。まぁ今はまだ準備段階ってとこか。」

「これから具体的に色々決めていくようだから、実感なくてもしょうがないか。」

マサキは足を止めた。

「ここだよ。」

そこは雑居ビルが建ち並ぶ一角にある、地下へ続く階段の前だった。

「ここ?」

「うん。」

階段の横には『MIKA』と書かれた小さなネオンが光っていた。

マサキに続いて階段をゆっくり降りていく。

「なかなか渋いとこ通ってんだな。」

思わずマサキの背中につぶやいた。

「ここのママは、俺が初めて新聞に掲載された記事に関わった人なんだ。」

「記事に関わった人?」

どういうことかは全く想像もできなかった。

階段を降りきると、目の前に小さな扉があった。

マサキがその扉を押すと、チリンチリンと軽やかな鈴の音が響いた。

店内は、とても狭く、ママのいるカウンターを挟んで、丸椅子が7つほど並んでいるだけの細長い空間。

「久しぶりに来たよ。」

マサキはママに声をかけた。

既に2人ほどの客がウィスキーを飲んでいる。

「あら、いらっしゃい。待ってたわよ。首を長くして。」

ママがこちらを振り返る。

茶色く丁寧にパーマがかけられた髪がふわっと揺れた。

想像していたよりも随分若く見える。とても色白で、丸顔のせいだろうか。

赤い口紅が印象的だった。