ミユキの目はかすかに潤んでいた。

次の僕の言葉を待っている子犬のように見える。

ミユキは性格もいいし、明るいし、一緒にいて楽しい。

だけど、なぜだかミユキを抱く時はいつも自分の気持ちを奮い立たせる必要があった。

そんなこと誰にも相談できることではなかった。

ミユキにもばれてはいけないと思えば思うほど、自分の気持ちが萎えていく。

「父も私達のこと心配していたわ。仲良くやってるのかって。」

ミユキの目は今にも泣きそうだった。

最近は僕の帰りが遅く、ろくに会話もしていなかったから。

それでも、ミユキに対して抱きたいと思えない自分が情けなくもあり、不憫だった。

「最近帰りが遅くてごめん。色々と仕事で考えちゃってさ。」

それは嘘ではなかった。

これから先、研究の仕事以上に経営の仕事が増えていくかもしれないことへの葛藤。

社長の娘と結婚してしまったがゆえのレール。

自分で選んだはずだった。

こんなにも短期間で揺らぐとは自分でも思いもしなかったこと。

ミユキの頭をそっと抱いた。

ミユキは僕の胸に自分の顔を埋める。

胸に華奢なぬくもりを感じながら、アユミを思い出した。

どうしているんだろう。

マサキにもらったアユミの連絡先は、まだ僕の財布に入ったままで、捨てれずにいた。

ミユキの唇をふさぐ。

そのままミユキと重なった。

アユミのことを思いながら、ミユキを抱いていた。

ミユキはそんな浅はかな僕の胸の内も知らず、僕をしっかりと抱きしめる。

社長夫妻が帰ってきたのは、夜中だった。

ミユキの寝顔を見つめながら、玄関の扉が開く音を聞いていた。