「想像以上だった。アユミの話。」

妙に喉がカラカラになっていたので、水を一口飲んだ。

「そうかもしれないわね。きっとあなたがこの八年間過ごしてきた時間とは別次元くらにかけ離れた時間を私は過ごしていたと思うわ。でも、今となっては全て過去のこと。今は落ち着いてるし、仕事も楽しくやれてるから大丈夫よ。」

そう言って、水の入ったコップを持つアユミの手はかさかさで所々かさぶたができていた。

消毒液にやられたんだろうか。

寝不足が祟って、免疫力が落ちているのかもしれない。

僕がじっとアユミの手を見つめていたのがばれたのか、アユミはすぐに自分の手をテーブルの下に隠した。

「あなたは私のこと心配してくれてたけど、今は本当に大丈夫だから。それに、私はもう男の人にはこりごりなの。私一人で生きていくくらいの稼ぎは何とかなりそうだし。誰の手も借りないつもりよ。」

「本当に?」

「ええ、本当に。あなたこそどうなの?家族とはうまくやってる?奥さんのこと大事にしなきゃだめだわ。」

そう言うと、アユミはすっと目を伏せた。

子供はいるのかとか、それ以上尋ねることもなかった。

奥さんのこと大事にしなきゃって・・・今の僕がこれほど耳の痛い話はないのをまるで見透かしていたかのように。

きっとアユミには僕のことなんかお見通しなんだ。

学生時代からずっとそうだ。

僕がアユミの少しの変化も見逃さなかったように。

アユミもまた僕のことはちょっとした言葉や顔つきで全て悟っていた。