「ありがとう!! マサはいつでも頼りになるね。大好きだよ」

 弾けるような笑顔。明るい声。大好きという言葉。アオイの放つ様々な柔らかいものに当てられ、マサの心は完全に持っていかれてしまった。寸前のところで踏みとどまっていたのに無駄だったと言わんばかりに。

 そもそも、俺は本当に初対面の頃からこの人を心底嫌ってたわけ?

 苦手意識はあった。だけどそれは言い換えれば意識しすぎているのと同じこと。何の情報もない、出会ったばかりで真っ白なイメージしかないアオイにリオを重ねて、似ているから苦手だと思った。

 反面、とても好みのタイプで魅力的だとも感じた。しかし相手は結婚しているので、口説いたところで無駄打ちに終わる。

 強引にリオの影を重ねて毛嫌いすることで、アオイに一目惚れしてしまった自分を打ち消そうとしていたにすぎない。苦手だと思えば良い部分など見えなくなるし、何より深入りせずにすむ。

 しかし、そうはならなかった。深入りしないよう心に壁を作っても、アオイの魅力はいつしかマサの心に浸透していった。

 好きにならない努力なんて、するだけ無駄だったんだ。だって、この人は最初から魅力的過ぎなんだから……。

 笑った顔も、無邪気な話し声も、仕事中の真面目な顔も、全て記憶に刻まれている。

 まじまじ見ないようにしていたのに、無意識のうちにアオイに関する記憶が増えていった。

 認めたくないけど、認めるしかない。

 マサはアオイへの感情をようやく自覚し、受け止めた。

 だが、序盤に比べたら少し素直になった程度で、その認識はまだまだ浅く緩い。だからこそまだ気持ちに余裕があった。

 ま、好きって気付いたところで片想い確定だし、どうせすぐ忘れるでしょ。この先どうにかなるわけでもないし。

 いったん認めてしまったおかげで、妙に気持ちが落ち着く。