秘め恋


 だけどこれは純粋な恋じゃなく現実逃避に過ぎない。何となくうまくいかない仁との結婚生活から目をそらすためにマサの言動にドキドキして、彼の優しさに寄りかかることで寂しさを癒している。それだけ。

 そんなことのためにマサを利用するわけにはいかない。ある意味で、マサとの関係にケジメをつけ自分の気持ちを切り替えるための時間。それが、このラブホテルで過ごす一夜の意味。

「でも……。本当に、現実逃避なの?」

 冷静な自己分析こそが現実逃避になっているような感じもする。

 本当に、本当に、マサのこと、意識してないって言い切れる?

 遊び人だったマサの過去を知った時、あんなにもショックだったのは異性として彼に惹かれはじめていた何よりの証拠。イクトとマサ、同じような属性の二人に対する気持ちの違いの差。

 待って。冷静になろ。

 結婚してから、ここまで長く特定の異性と関わることはなかった。だから浮かれているだけ。マサのように特別扱いしてくれる人が今まで周りにいなかったから意識してしまっているだけ。

 それに、結婚してから仁とは変に距離ができて寂しかった。寂しいから優しくしてくれるマサが気になるだけ。それだけ。恋なんかじゃ、絶対ないよ。

 スマートフォンを手にし、仁の電話番号を表示させた。彼は今頃まだ仕事をしているのだろう。夜も深い。いつもなら仕事中の仁を気遣い決して電話などかけないのだが、今回は思い切ってかけてみることにした。繋がれと祈りながら。

 寂しい。そう伝えよう。仁に。