秘め恋


 車がゆっくり発進する。車が動くと同時にマサの視線は前方に向けられたのに、アオイの胸はまだ今もマサに見つめられているかのように高鳴っていた。

「好きな人って、同じ大学の子?」

 これでもしマサから告白されたらどうしたらいいのだろう。アオイは複雑な思いに駆られた。そうなったら絶対困るのに、心の大部分でそうなったら嬉しいと思ってしまう。仁がいながら別の人の気持ちも欲しがっている。この気持ちは一体何なのだろう。単なる友人の域を超えてしまっている。不純な気持ちには違いないが、不倫と言えるほどの関係でもない。明確な感情名が浮かばない。

「ううん。大学の子じゃなくて、例のイクトの元カノ。気まずいし、関係が関係だし、付き合うなんて無理だけど。それでも好きでいるのは自由かなって」

 マサはとっさにリオの存在を口にした。もちろん、リオに気持ちがあるなんて大嘘だ。しかし、アオイ本人の前で好意を口にするわけにいかない。

 アオイの質問はとても際どかった。話の流れとしてアオイの質問は至って普通のものだったが、同時に、こちらのデリケートな部分に踏み込んでくる気満々のようにも感じた。アオイとは何を話していても楽しい。しかし、恋愛事に関してだけはあまり触れてほしくなかった。

「そうだよ。好きになるのは自由。我慢してるだけマサはすごいよ。私なんかより全然。でも、その子は多分マサのこと好きだったんじゃないかな。イクト君に関する相談を持ちかけてきたのもマサと仲良くなるきっかけにしただけで……。告白したらきっとうまくいくよ。連絡してみたら?」

 やけに明るい口調で告白を勧めてくるアオイに、マサは少なからずショックを受けた。嘘をついた自分が悪いのだが、それでもやはり、好きな人に他の女との仲を応援されるのは嫌だった。

「連絡先知らないし」

 悲しさで、そっけない答え方になる。正直リオなんて今はどうだっていい。それなのに、アオイはなぜかやたらマサの恋を応援したがった。