「違うよ! そうじゃなくて、マサの好きな人の話って聞いたことなかったから。もしかして、今いるの? 気になってる子とか」
どうしてこんな質問をしてしまったのだろう。気が動転していたとしかいいようがない。ここまで突っ込んだことを訊いて、すぐに後悔した。これではマサのことを個人的に気にしていると思われかねない。彼にしたら迷惑な話だ。アオイは言い訳を付け足した。
「秘密の友達としての質問だよっ。他意はないから!」
「分かってるって」
またその顔……。
今日何度目になるか分からないマサの悲しげな顔に、アオイは不覚にも胸が高揚してしまう。これでは自分がとてつもなく意地の悪い人間みたいだ。マサには笑っていてほしいのに、今はなぜか悲しげな顔の彼に喜びを覚えてしまう。
最も彼が悲しげだったのは、昼食の時イクトに過去を暴かれた時だった。なぜ、あんなにもつらそうだったのだろう。イクトに責められたせいだけではないように感じた。
もしかして、本当にマサは……。ううん。まさかね。
「無理に答えなくていいよ? 言いたくないこともあるよね」
「ううん、言うよ」
信号は赤から青に変わった。それでもマサは車を走らせようとせず、停止したままで助手席のアオイを見つめた。後続車はなく、新しく他の車が走ってくる気配もない。そんな状況をいいことに目をそらす隙を与えないマサの視線に、アオイは釘付けになった。
「叶わないって分かってても好きな人、俺にもいるから」
「え……?」
「だから、旦那を好きになった時のアオイの気持ち、よく分かるよ」
「マサ……」


