玲奈は口に出さないけど、仁を奪った私を心の底では警戒したり憎んだはず。そうでなかったとしても、今後は私に好きな人を紹介したりなんて絶対しないと思う。
そこまでして得た好きな人との暮らしがあるのに、マサにときめいてしまった。だから指輪は失くなった。生涯のパートナーがいながら勤務先のバイト相手に浮ついた気持ちになった罰だとアオイは思った。
指輪を探すといって頑なにマサを帰らせようとしたのも、これ以上彼のそばにいるとますます浮ついて自意識過剰になるだけだと思ったからだ。でも、心のどこかで、マサは最後まで自分に付き合ってくれそうだとも思っていた。ずるい自分に嫌気がさした。
それでも、車内にかかる音楽と夜闇の心地よさが快適さを増し、深い自己嫌悪に陥らずにすんだ。開き直ったわけではないが、そう取られても仕方のないことを口にしてしまうくらい解放的な気持ちになっていた。
「恋すると女の人は綺麗になるっていうけど、私は逆だな。それまで知らなかった汚い面ばかり浮き彫りになってくの」
「そうかもね。今はそういうのなんとなく分かる」
マサの声にいつになく明確さを感じ、アオイはドキッとした。いつも曖昧で澄ました物言いをする彼の、らしくない口調。
「マサもそうなの? 意外だなぁ」
「元遊び人だから恋なんてするのコイツって感じ?」
こちらの反応を試すように、探るような目でマサは尋ねてくる。ちょうど信号待ちに差し掛かった。昼間、日焼け止めを塗ってもらった時の、肌に触れたマサの体温を思い出た。顔が熱くなる。夜が顔色を隠してくれるので助かった。


