「意外と早かったなー。おかえり〜」

 何でもない調子で陽気に振る舞うイクトに、マサは念を押した。

「俺に恨みがあるのはよく分かった。これからどんなことされても受け止めるよ。でも、二度とアオイに触らないで」

 マサの瞳に深刻な怒りが映っている。それを見てアオイは全身が激しく脈打つのを感じた。マサの発言は一バイトとして店長を大切に思う言動ではなく、明らかに異性を想う心意気だった。

「マサ、私は大丈夫だから」

「アオイが良くても俺は嫌だ」

 マサにまっすぐな視線を向けられ、アオイは身動きできなくなった。呼吸まで止まってしまいそう。もう反対意見なんて出てこなかった。

「イクト、ここから俺達は別行動させてもらう。ユミちゃんのこと早く迎えに行きなよ。じゃあね」

 マサはアオイの手を引き店を出ると、ビニールシートに置いておいた自分達の荷物を抱えてどんどん遠くへ移動した。

 イクト達と共有していたビニールシートからだいぶ離れた砂浜へ着いた頃、アオイはようやくマサを引き止めることができた。

「マサ、そこ空いてるよ。一度座ろ。それともさっきとは別の場所でご飯食べる? マサ何も食べてないでしょ?」

 息つく間もなく言葉を連ねてしまうのは、胸の高鳴りにやましさとときめきが混ざっていたから。アオイは、今自分を突き動かす大きな感情を見ないようにした。

 マサはアオイの言葉で我に返り、抱えていたアオイの荷物を彼女に返した。

「ごめん。今後の予定勝手に決めて」

「ううん。これでよかったと思う」