「でも、こうしてアオイちゃんにホントのこと言ったってユミには黙っててほしいんだ。お願い。アイツは最後まで付き合ってくれるつもりだからさ」

「分かったよ……」

 イクトの話は本当なのだろうか? マサへの複雑な友情は理解できなくもないが、何かが引っかかる。どう切り返したら彼から本音を引き出せるのだろう。閉口するアオイに、イクトは再び意味ありげな視線を注いだ。

「アオイちゃんさ、さっき日焼け止め塗り直したいって言ってなかった? 俺がやったげよっか。もうユミに遠慮することないし」

「それはそうかもしれないけど……」

 拒否反応が先立つ。マサに頼む時は平気だったのに、イクトには触れられたくないと思ってしまう。自意識過剰だろうか。断ったら失礼になるのか。

 イクトはマサの親友だった人だ。波風を立てずにこの場を回避したい。うまく断る方法を思案していると、聞き慣れた声が二人の間に割り込み、同時にアオイの腕からイクトの手が離れた。

「人の彼女に触らないでくれる?」

「マサ……!」

 この時を待っていたのかもしれない。アオイはすがるようにマサを見つめた。走って戻ってきたのかマサの息は乱れていて、その表情にはどこか必死さが伺える。そして、今アオイの腕を掴むのはマサの手だった。イクトの手から救い出してくれたマサの手はとても頼もしくて力強いものに思えた。