一歩一歩進む度に風が僕の体にぶつかる
まだ暑い夏の朝
僕は汗を腕で拭いながら全力で走っていた

「やっべぇ!!!遅刻する!!!今日は水曜だから…遅刻者は女装の日だぁぁ!!」

僕の名前は坂本 拓磨(さかもと たくま)
知っての通り絶賛遅刻寸前
僕の担任は遅刻者には罰ゲームをさせるなんとも悪趣味な性格をしている
月曜は1日語尾にニャン
火曜は1日笑ってはいけない
水曜は1日女装
木曜は1日歌い続ける
金曜は1日笑い続ける
といった謎の罰ゲームをさせる

そして、今日は水曜だ、女装…
僕は先週やったばかりなのだあんな思いもう二度としたくない!!!

「あとすこ…し…え?あそこに人が…」

もう少しで学校に着くって所で1人の女の人が立っていた
何をしているのか聞こうと近寄ると女の人がボソボソと喋り始めた

「駄目ね…どうしたらいいの、もうやっていけないわ」

僕はその言葉を聞くと自殺するのでは?という恐怖が過ぎった。
これは止めなければと体が勝手に動いた

「あ、あの!!こ、ここでなにをしているんですか?」

女の人はかなりビックリしたようで「きゃぁぁ!!」と叫んでしゃがみこんでしまった

「あ、す、すみません、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます…」

申し訳ない気持ちで手を差し伸べるとゆっくりと彼女は手を乗せてきた

(わぁ…近くで見ると綺麗な人だなぁ…)

淡い紫色のショート、透き通るような目
まだ少し幼さを残している声
僕はつい見とれてしまっていた

「あ…あの…そろそろ手を…」

僕は言われて気づき、慌てて手を離し
声をかけた本来の目的を思い出し彼女に尋ねた

「あの…どうしてこんな所に?先ほど呟いていた『もうやっていけない』って…」

彼女は少し黙り僕の方を真っ直ぐ見てゆっくりと口を開いた

「私、漫画家なの…それで話が思い浮かばなくてここに」

(え、今なんて言ったんだ?漫画家?漫画家って言ったのか?)

自分の耳を疑い1人でオロオロしていると彼女は「クスッ」と笑い僕に問いかけた

「もしかして、自殺すると思ったんですか?」

思っていた事がバレてしまい更にオロオロし始める
とりあえず、落ち着こうとは思っていても頭がついていけてなかった。
でも、返事はしないといけないと思いたくさん首を縦に降った。

「ふふっ、そんなに降ったら首取れちゃいますよ?」

「うぇ!?」

驚くような事を言っていないのに大袈裟なまでに驚き、何処から出したのか分からないような変な声を出してしまった……