「ハル先輩」




頭の中で、よく響く声が 後ろから聞こえてくる。




「何?」




後ろを振り返ると、後輩が黒い炭酸飲料水を2本手に持って立っていた。


差し出された1本を受け取りながら礼を言うと、無表情で 「いえ、大丈夫です」 と言われた。





私は今、この後輩に片思いしている。





もしかしたらこの後輩が、私の事を好きかもしれないと考えたことすらないのにはある理由がある。




学校で秘密裏に造られた『恋愛応援倶楽部』。


そこの副会長を務める私は主に、恋に悩める者達への助言をしている。 まぁ、言わば恋愛相談である。


そこで、倶楽部の噂を聞きつけ相談をしに、やってきたのがこの後輩だった。



相談を持ちかけてきた、という時点で好きな相手がいるということになるのだから、結局は私の片思いだけで済んでしまうわけだ。




彼の担当になったからには、しっかりと任務を遂行しなければならない。





「君の相手はどんな人なの」

「正直に言うと、よく分かりません」

「つまり一目惚れ、とか?」

「…そう、なんでしょうね」





相談を受けるうちに知っていく彼のこと。

嬉しさとともに、何か後ろめたさも感じていた。




そうして今、相談最終日を迎え、いよいよ明日告白に移るらしい。





「ん、明日だね。告白」

「ハル先輩のおかげです、ほんと」

「君は優しくて素敵だ。だから、君にとって良い結果になると思うよ」





その言葉を、自分で言っておいて悲しくなってくる。




ああ、泣きそう。





「先輩」

「…」

「やっぱり、告白今日にします」

「えっ」





泣きそうになるのを堪えて彼を見ると、穏やかな表情をしていたのが見えた。

どうしてだろうか。




「それ、全部飲んでください。じゃあ自分はこれで」

「…分かった」




彼の示す答えは、何故だかそこにある気がしてそれを一気に飲み干した。




「あっ」




ペットボトルの外側には黒い文字で言葉が書かれていた。





「…照れ屋なのか」





涙をそっ、と拭いとり、その場から立ち上がって走った。





あれは、最近見慣れたばかりの背中。






「ねぇ… 待ってよ "ナツキ" !


わたしも、すき、だよ… 」