玄希くんは徐々に回復していった。
心臓の手術を乗り越え、病院の味気ないご飯をもりもり食べ、体力は大分普通の男の子と同じくらいになった。
時は知らぬ間に過ぎて行く。
季節は8月。
これから夏本番だった。
私達はクーラーのガンガン効いた小児病棟専用の遊び場の一角を陣取り、話し合いを行っていた。
「晴香としたいことリスト作ったんだ」
「えーっ、何?」
当時流行っていた魔法少女アニメのキャラクターが描かれたノートを使う私とは対照的に、玄希くんが持っていたのはモノトーンの大学ノートだった。
そこにはひらがなだけじゃなく、私がまだ習ってない漢字やNewと同じ類の文字も混ざっていた。
「ねえ、これ何て読むの?」
「これはね、せんこう。線香花火をするって書いたんだ」
「へえ~。…あっ!これ、私の漢字だ!」
晴香の香を指差すと玄希くんが「当たり」と言って頭を撫でてくれた。
私がにやけていると玄希くんが私を見つめて言った。
「晴香、今度病院でやる夏祭り、来る?」
私はもちろん行くつもりだったので大きく首を上下させた。
玄希くんは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、その日、花火したいから晴香のお母さんに提案して。迷惑がかからないように、線香花火にするからって、そう言ってね。絶対だよ」
後にも先にも、この時ほど玄希くんが私に強くものを言ったことは無いと思う。
それだけやりたかったんだ。
本当はお父さんとやるはずだった線香花火を…。
当時の私にもそれは理解できたから、お母さんに懇願することを誓った。
玄希くんが喜んでくれるなら…。
笑ってくれるなら…。
私の心の中にはそれしかなかった。
心臓の手術を乗り越え、病院の味気ないご飯をもりもり食べ、体力は大分普通の男の子と同じくらいになった。
時は知らぬ間に過ぎて行く。
季節は8月。
これから夏本番だった。
私達はクーラーのガンガン効いた小児病棟専用の遊び場の一角を陣取り、話し合いを行っていた。
「晴香としたいことリスト作ったんだ」
「えーっ、何?」
当時流行っていた魔法少女アニメのキャラクターが描かれたノートを使う私とは対照的に、玄希くんが持っていたのはモノトーンの大学ノートだった。
そこにはひらがなだけじゃなく、私がまだ習ってない漢字やNewと同じ類の文字も混ざっていた。
「ねえ、これ何て読むの?」
「これはね、せんこう。線香花火をするって書いたんだ」
「へえ~。…あっ!これ、私の漢字だ!」
晴香の香を指差すと玄希くんが「当たり」と言って頭を撫でてくれた。
私がにやけていると玄希くんが私を見つめて言った。
「晴香、今度病院でやる夏祭り、来る?」
私はもちろん行くつもりだったので大きく首を上下させた。
玄希くんは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、その日、花火したいから晴香のお母さんに提案して。迷惑がかからないように、線香花火にするからって、そう言ってね。絶対だよ」
後にも先にも、この時ほど玄希くんが私に強くものを言ったことは無いと思う。
それだけやりたかったんだ。
本当はお父さんとやるはずだった線香花火を…。
当時の私にもそれは理解できたから、お母さんに懇願することを誓った。
玄希くんが喜んでくれるなら…。
笑ってくれるなら…。
私の心の中にはそれしかなかった。



