HARUKA~愛~

「ハル、大丈夫?」


気がつくと、1年前までは遥奏が眠っていたベッドに横になっていた。

いつ見てもこの無機質な天井は変わらない。

鼻を刺激する薬品の臭いも変わらない。


変わったのは、私と遥奏の関係性だけだ。


「ハル、オレが声掛けたのに完全無視して、何かに取り憑かれたみたいに走って行ったからびっくりした。追いかけていったら、倒れてて、ほんと、どうしょうかと思った」

「ごめん…」

「謝んなくて良いよ。ハルはもっと甘えて良いんだよ。1人で抱え込み過ぎ。…ってか、オレが頼りない?」

「いや、全然そんなことない!遥奏はいつもいつも私を助けてくれて、スッゴく頼りになるよ」

「なら、もっと頼れ。オレはいつでもどこでもハルのためなら走って行くから」


遥奏はそう言って私の頭を優しく撫でてくれた。

遥奏の手の温もりは一生涯忘れない。

遥奏の手がすぐそこにあると思うだけで安心する。



ありがとう、遥奏。



照れくさくて今は言えないけど、いつか必ず言うね。

だから、この気持ちは胸の奥の1番届きにくい引き出しに入れて置く。

焼き芋のようにじっくりじんわり温めて、その時が来たら、今までの分もみんなひっくるめて言おう。 


私は1つ誓いを立てた。



「ヤバっ!劇始まるじゃん!!急がねえと」

「私も行くよ。遥奏の劇、見たいし…」

「ハルはもう少し休んでな。明日もやるし、大丈夫だよ」

「本当にごめん。明日は必ず行くから」

「ハル、ごめんって言わないって約束しよ」

「えっ…」


遥奏の細長い小指が目の前に現れる。

私はそっと小指を絡めた。


「もう、ハルにごめんって言わせない。ハルもごめんって言わない」

「…分かった」

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った!」


遥奏の最高のスマイルとウインクを私は独り占めし、しばらくその余韻に浸ったのだった。