文化祭まであと2日。

学校は文化祭ムード一色だった。



私達の学校は3年に1回文化祭が行われる。

金、土の2日間開催で、土曜日は一般公開され、ちびっ子からお年寄りまでたくさんの人が訪れ、大変賑わうらしい。

全学年、全クラスがそれぞれ思い思いの出し物をし、遥奏達のように部活でダンスをやったり、劇をやったりもするから、かなり内容は充実している。

ただそれだけに準備は大変だ。

今日の私の仕事はと言えば、もはやメイド係りの域を裕に越え、大道具係りと同化していた。

右手にバケツ、左手にもバケツ…。

それを5往復し、体力はかなり消耗し、倒れ込みそうだ。

肩が凝り固まっていて、肩を回そうにもなかなか回せない。


「はい、どうぞ」

「おお、サンキュ!」

「っていうか、私に力仕事させないで。宙太くん男でしょう?」

「俺はな、バスケ部の演劇で散々やらされて疲れ果ててんの。ああ…腰が曲がっちまうわ」


バスケをしなくなってから、宙太くんは明らかにデブ性になった。

あんなに俊敏に動いていたのが嘘だと疑ってしまうほど、今の彼は鈍い。

残念ながら、人は一度気を緩めると引き締め直すのは難しいみたいだ。


「はるち~ん!何か手伝うことある~?」


瑠衣ちゃんが吹部の出し物の練習を終え、スキップをしながら教室に入って来た。

体力が有り余っているなら、私の仕事を全部引き受けてもらいたいくらいだ。

しかし彼女に仕事は頼まない。

というより、頼めない。


「るい!こっちの飾り付け手伝って!!」


彼女はクラスの中心にいて自分から話し掛けなくても仕事は降ってくる。

クラスの太陽はいつだってそこにいるだけで許される。
存在自体が認められているって得だ。

そう思った。


そして、太陽だけじゃなくプリンセスももちろんVIP待遇。

重いものを持ってたら男子がささっとやって来て何も言わずに持ってくれる。

ジャージが汚れるような仕事もさせない。

彼女は当日のメイドの仕事と家庭科室で、のんびり優雅にクッキーを焼いていればそれで良い。
もちろんその指導には、スイーツ好きのカレシがついている。


それに引き替え私は…。

自分は本当に女子なのかと疑いたくなる。

私を唯一女子扱いしてくれる、頼りの遥奏も演劇の練習の方が忙しくて来れないし、私はもう地獄。

男子と体育会系女子に囲まれ、看板作りに勤しんでいる。


「は~」

「溜め息ついてたら、幸せ、逃げちゃうよぉ」


振り返ると、ここにいるはずのないヤツがとんでもない格好をしてこちらを見ていた。


「おっと、イッシー…って、おええ!?」

「新妻さんに借りて、着てみたんだぁ。なかなか似合うよねぇ?」

「マジでかわいい…。やべえ、恋しちゃいそう…」


ヤツはやっぱり男じゃない。



似合い過ぎるよ…。



ヤツの女装は破壊力抜群だった。

驚きなのか何なのか、言葉にならない感情が心臓の中心を射った。


「私の代わりにメイドやって。私があんたの仕事やるから」


私はコイツに適わない。

コイツにやってもらった方が100倍、いや1000倍も話題になって、あわよくばクラスの出し物グランプリを受賞出来るかもしれない。


私は久しぶりに本気で神に祈った。

自分の醜態をさらけ出さないことが1番の願いだ。

尚且つ盛り上がるなら、これに越したことはないと思う。


ヤツはニヤニヤ笑って言った。


「おっけぇ~」

「おい、マジかよ!超嬉しいんですけど」

「ありがと」

「どう致しましてぇ。当日、衣装忘れないでね」


忠告されてもされなくても忘れないだろう。

私にとって最大級に喜ばしいことだもん。

私1人だったら、多分ウサギのようにピョンピョン飛び跳ねていたと思う。

ほんと、感謝感激雨嵐だ。


「じゃあ、これ仕上げよぉ。これ終わったら試作品のクッキー、あげるから」

「ヨッシャ~!!元気出して頑張るぜ!!」

「玄希だけに…」


宙太くんのオヤジギャグに、瞬間冷凍してしまった。