「じゃあ、みんな揃ったから、自己紹介していこうか。じゃあ、あたしから時計回りで」


班員6人が全員集合し、瑠衣ちゃんの呼びかけで自己紹介が始まったが、私には必要無かった。


「…うるさいし、何かと大騒ぎしちゃうかもしれないけど、温かく見守って下さい!以上!…次は、新妻さん」


立ち上がる彼女を見つめる。

変わらないふわふわのボブスタイル。
どこからどう見ても、彼女の容姿には文句がつけられなくて、やっぱりプリンセスだ。

だけど彼女には裏の顔がある。

私は彼女の苦しみを知っていて、今はしわ1つ無いブラウスに、2年前の冬それを吸収した。

私は彼女の目を見ることができなかった。


「新妻優奈です。友達からは、“ゆうにゃん”と呼ばれてます。瑠衣ちゃんと同じく吹奏楽部所属で、クラリネットやってます。のんびりおっとりしてますが、こう見えて運動も結構出来ます。よろしくお願いします」


優奈ちゃんがスカートの裾を気にしながら着席すると、隣に座っていた宙太くんが「新妻さん、かわいいな」と耳打ちしてきた。

私は取りあえず笑ってごまかした。

宙太くんには彼女の裏の顔を知らせてはならないと思った。






ガタン―――







何の前触れもなく、ヤツは勢い良く立ち上がった。

班員の顔を一通り見回してから、ヤツの口は開いた。


「石澤玄希です。よろしくお願いします」


たった二言だけ言うと、ヤツは静かに座った。

すかさず宙太くんが茶々を入れる。


「石澤くんさぁ…なんかもっと無いの?例えば部活とか…」

「一応野球部です」

「へえ、野球部?ポジションどこ?」


宙太くんの質問にヤツと優奈ちゃん、瑠衣ちゃんの3人が凍りついた。

私と遥奏も大体察しがついていたから、視線を落とした。

誰の机かは分からないが、消しカスがきれいにまとめられて置いてあった。


「ええっと…その~。次、俺か…。俺は…」


悟った彼が微妙な雰囲気の中話し出す。

そのあとの私達2人は名前と部活を言って腰を下ろした。


微妙な雰囲気をどうにか乗り越えて全員の自己紹介が終わったが、重い荷物を背負わされたような気分になった。

仕切っていたはずの瑠衣ちゃんも意気消沈という感じで、その日は修学旅行の自由行動の行き先を決める予定だったのに、みんな上の空で全く話が進まなかった。














まあ、どちらにせよ、私には関係の無いことだ。









なぜなら私は…







 

修学旅行に行けないから。