出目金への猛アタックが失敗し、私は悲しみを払拭するため大判焼きを3個も買ってしまった。


浴衣の帯をかなりきつく結んでしまったから、お腹が空いているのかどうかも正直あまり分からない。

それなのにこんなに買ってしまうなんて、私はバカだ。


食べないわけにもいかず、1人落ち着いて食べられる場所を探す。

花火大会のプログラムが全て終了し、人々は帰路を急いでいる。

私は人の波に立ち向かって行くしかなかった。

カップルとぶつかり、酔っ払いのおじさんとぶつかり、甚平を着た3歳くらいの男の子とぶつかり、その子には泣かれてしまった。

しかし、謝ることも出来ない。

一心不乱に前だけ見て進む。

人混みを必死に掻き分け、下駄のせいで足の親指と人差し指の間がじりじり痛むのを忘れていた。



そうしてようやく目的地にたどり着いた。

毎年帰る時に眺めていたあの河川敷だった。

大学生だと思われるグループが2、3組まだ残っているが、私はその人達から大分離れたところに、手に持っていた今日の花火大会のチラシを敷いて腰を下ろした。


「食べるか…」


人に揉まれて大判焼きはいびつな形になってしまっていた。

恨めしく数秒見つめてから大判焼きにかぶりついた。


「美味しい…」


思わずひらりと言の葉が舞った。

あんこの甘さが絶妙で、口の中で優しくじんわりと広がっていく。

生地も割とふんわりとしていて想像以上に美味しかった。

食べられないと思っていたけど、以外とペロリといけちゃうかもしれない。

調子に乗った私は、一口、二口…と夢中で頬張った。

お腹に降りてくる度に帯が締め付けられて苦しさを感じるけれど、止められなかった。

ひとまず1個を食べ終え、川に視線を移して見る。












あっ…












いた…












私の目は今年も捕らえてしまったようだ。



吸い寄せられるように、勝手に足が動いてしまう。

ずんずんと水辺に近づいて行く。

自分の意識では、もはやセーブ出来なくて、気がつくとその人との距離は3メートルほどになっていた。


線香花火は今年も儚い。

一瞬パチパチと咲き、ポタリと無惨に落ちる。


彼はまた線香花火の先端に火を灯す。

徐々に先端が明るくなり、丸みを帯びてくる。

大きくなると、パチパチと音が鳴り出す。



パチパチパチパチパチパチ…―――ポトン。



花火の行方をじっと見つめている彼の背中は小刻みに揺れている。 



今年こそは…



意を決して私は声をかけた。


「あの…」


私の声に反応し、彼は体を回した。












―――――…ウソ












そこには、泣き顔のヤツがいた。