雪の降りそうな寒い日だった。
穂高煌生は、職員玄関と書かれたガラス扉の横の壁にもたれるように座り込んでいた。勿論こんな寒い日に好き好んでこんな所に呆けて居るはずもない。
彼は校内に忘れたカーディガンが届けられるのを待っていた。

普通なら、自分の通う校舎なのだ、自分で取りに行けば良い。しかし今日は校内で入試が行われていた。
本来であれば、今ここにいる事さえ咎められて然るべき行為だ。特にここ最近は、入試に対するセキュリティの徹底が義務化されつつある。

「くそ寒ぃ…」

凍える手を擦り合わせる。
カーディガンだけならどうって事はなかった。こんなわざわざ休みの日に取りに来る必要もない。
問題はカーディガンのポケットに入れっ放しのスマホだ。あれが無いと、今日明日の週末を迎えられない。
別に携帯依存症ではない煌生だが、やはり現代っ子、手元にスマホが無いとどうも落ち着かない。

「早くしてよー岩先」

先程たまたま職員玄関前で遭遇した岩先もとい岩瀬先生の名前を呼ぶ。
その時体育館と教室のある棟を結ぶ渡り廊下の方から声が聞こえた。そこには学ランを着た男子が2人。

「佐々木ぃ!俺だけ落ちてもずっと友達だからな!」
「試験前に縁起悪い事言うな」
「てかやっぱ一緒にK校行こうよ!佐々木も滑り止めに受けてたろ」
「やだ。1人で行けば」
「酷い!冷たい!浮気してやる!」
「うるさい」

いいなー。若々しい。
自分とひとつしか変わらない筈の彼等にそんな感想を抱いて、少しだけへこむ煌生の目に、男子2人の後ろでおろおろとしている女の子が映った。
紺色のセーラーに、陽に透けるふわりと軽そうな長い髪。
特別スタイルが良いとか美人だとかではないが、そこからちらりと覗いた真っ赤な頬が、煌生の視線を離せなくした。

「林檎みたい…」