「何かね、曜日ごとに清掃場所が違うみたい」
「あ、そ、なんです…ね」
「俺とりんごちゃんは中庭だそうです」
「そうなん、ですね」
「そうそう。そんでねー…」

プリントを指さし説明する煌生に、コミュ障なりに精一杯の受け答えをする凛子。
今まで極端に人との関わりを避け続け、まともに話せるのは家族と親友の美麗だけ。持てる会話スキルを総動員してみせても、そうですね、と頷くだけで一杯だった。

いつも、そうだった。人に話し掛けられても、赤面症の事に気を取られて、思うように言葉を返せない。もっと会話を広げるような面白い事が言えたら良かったのに。
そんな思いからか、凛子の口をついて出たのは、謝罪の言葉。

「す、みません…」
「え?」

突然の事に驚いて目を丸める煌生。

「あ、いえ、その…」
「うん?」
「わざ、わざわざ、すみません、です、でした」

ぐっと屈んで顔を寄せた彼に、ドギマギと答える凛子。
そんな彼女の言葉に、煌生はうーんと考える素振りを見せる。

「ごめんより、こうゆう時はありがとうの方が嬉しいよ」

上手く話せない自分を責める訳でもない、馬鹿にするでもない。綺麗な顔をくしゃりと崩して笑う彼に、凛子は初めての気持ちを覚える。

『何言ってんのか聞こえないんだけど』
『わーこいつ赤くなってるー』
『きもーい』

凛子にとって人と関わる事は傷付く事とほぼ同意である。
だけど今確かに、目の前の男子との関わりを、彼女は苦痛に感じる事はなかった。

「なーんて、俺が勝手に持って来たんだけど」
「い、いえ…」
「ふ。じゃあ明日ね」

戸惑う凛子をどう捉えたのか、薄く微笑んで踵を返す煌生。その後ろ姿を凛子は思わず呼び止めていた。

「あ、あの!」