そう思い至ると、笑顔で手招きする彼がとても怖く見えた。
そこでようやく隣の美麗が口を開いた。
「り、凛子?あの人凛子の事呼んでない?あれって穂高先輩よね?穂高先輩っていったら…」
その言葉を遮って凛子は震える足を一歩前に出した。
「わ、私が戻らなかったら一時間後に探しに来て」
「へ?」
その時凛子の脳内には校舎裏で殴られる自分の姿が浮かんでいた。
怖い。怖いがしかし。
「美麗ちゃんを巻き添えにはできない…!」
見当違いの腹をくくって、扉の方へと歩いていく凛子。そんな後ろ姿を最早全く状況を飲み込めず見つめる美麗。そして、向かってくる凛子を満面の笑みで待ち構える穂高という男子生徒。
「や、りんごちゃん」
穂高煌生。人並み外れて整った顔にスラリとした体躯、モデルか何かだと言われた方が納得できる彼を、知らない者はこの学校にはいない。勿論友達の少ない凛子でも、周りの噂に名前だけはしょっちゅう聞いていた。
「俺、二年の穂高です」
しかしその顔を見た事は無かった。まさか昨日のアレが、かの有名な穂高煌生先輩であったとは。
「あ、あのっ、昨日は」
「昨日はごめんね?」
凛子が昨日逃げ去った事を謝ろうとすると、それに重なるように目の前の彼がその綺麗な顔の前で手を合わせる。
「え、あの」
「からかうつもりじゃ無かったんだけど、君、あんまり真っ赤で可愛かったから」
「っ」
凛子は本能的に感じとる。この人は自分にとって天敵であると。
そして一瞬で警戒心を強める彼女に、煌生が嬉しそうに顔を崩す。
「ほらぁ、もー、超可愛い」
「!」
眉を下げて笑う彼の瞳には、これ以上無い程真っ赤に顔を染める凛子がいっぱいに映される。
それを愛おしそうに歪めながら、煌生はにこにこと紙切れを差し出す。
「はい、これ」
凛子は肩をびくりと揺らしてそれを避ける。それにすらも煌生の笑みは深くなるばかり。
「昨日の委員会で渡し忘れたプリントだって」
「い、いんかい…」
ちらりと覗いた紙には【美化委員会清掃について】と書かれている。
「委員長が全クラス配ってたけど、りんごちゃんのクラスの分だけ俺が持ってきたよ」
ありがとうは?と、何だか理不尽な要求にも凛子はがばっと頭を下げる。
「あっありがとうございます…!」
「ふ。どういたしましてー」
滑らかな優しい声。
そこでようやく隣の美麗が口を開いた。
「り、凛子?あの人凛子の事呼んでない?あれって穂高先輩よね?穂高先輩っていったら…」
その言葉を遮って凛子は震える足を一歩前に出した。
「わ、私が戻らなかったら一時間後に探しに来て」
「へ?」
その時凛子の脳内には校舎裏で殴られる自分の姿が浮かんでいた。
怖い。怖いがしかし。
「美麗ちゃんを巻き添えにはできない…!」
見当違いの腹をくくって、扉の方へと歩いていく凛子。そんな後ろ姿を最早全く状況を飲み込めず見つめる美麗。そして、向かってくる凛子を満面の笑みで待ち構える穂高という男子生徒。
「や、りんごちゃん」
穂高煌生。人並み外れて整った顔にスラリとした体躯、モデルか何かだと言われた方が納得できる彼を、知らない者はこの学校にはいない。勿論友達の少ない凛子でも、周りの噂に名前だけはしょっちゅう聞いていた。
「俺、二年の穂高です」
しかしその顔を見た事は無かった。まさか昨日のアレが、かの有名な穂高煌生先輩であったとは。
「あ、あのっ、昨日は」
「昨日はごめんね?」
凛子が昨日逃げ去った事を謝ろうとすると、それに重なるように目の前の彼がその綺麗な顔の前で手を合わせる。
「え、あの」
「からかうつもりじゃ無かったんだけど、君、あんまり真っ赤で可愛かったから」
「っ」
凛子は本能的に感じとる。この人は自分にとって天敵であると。
そして一瞬で警戒心を強める彼女に、煌生が嬉しそうに顔を崩す。
「ほらぁ、もー、超可愛い」
「!」
眉を下げて笑う彼の瞳には、これ以上無い程真っ赤に顔を染める凛子がいっぱいに映される。
それを愛おしそうに歪めながら、煌生はにこにこと紙切れを差し出す。
「はい、これ」
凛子は肩をびくりと揺らしてそれを避ける。それにすらも煌生の笑みは深くなるばかり。
「昨日の委員会で渡し忘れたプリントだって」
「い、いんかい…」
ちらりと覗いた紙には【美化委員会清掃について】と書かれている。
「委員長が全クラス配ってたけど、りんごちゃんのクラスの分だけ俺が持ってきたよ」
ありがとうは?と、何だか理不尽な要求にも凛子はがばっと頭を下げる。
「あっありがとうございます…!」
「ふ。どういたしましてー」
滑らかな優しい声。
