最初に煌生に好きだと告げられたあの日から、凛子の周りに起きた変化は、学園の王子が毎日教室にやって来る事ともう一つあった。

「あれだってよ、煌生が会いに行ってる杉山って一年」
「何であんなダサブスに会いに行ってんのか謎なんだけど」

「煌生先輩って何で毎日杉浦さんに会いに来てるの?」
「え、あれって藤本さんに会いに来てるんじゃないの?」

「どうでもいいけど何で杉田凛子!?」

(凛子の名前も)よく知らない女子の態度の変化だ。

これまで、人に特別好かれた事は無かったが、特別陰口を叩かれたり嫌がらせを受ける事も殆ど無かった。赤面症が露呈せぬよう、ひっそりこっそり日陰で暮らしてきたのだから。
それがどういう訳か、学校一の人気者に好かれてしまうという事態。
彼はさながら太陽だ。日陰にいても、彼が「りんごちゃーん」と手を振り近付いて来るから、たちまちそこは日なたへと変わる。眩む目を開けると辺り一面明るくて。

・・でもここには先輩だけじゃない、色んな人がいる。
やはり、人と関わると傷付く事もある。

「調子乗ってんなよブス」
「いっぺん鏡見ろ」

移動教室の際、廊下を歩く凛子の耳を、そんな言葉が掠めていった。すれ違ったえんじ色の靴を、振り返る事も出来ない。

「え・・今のもしかして凛子に言ったの!?」
「わっ、わ、美麗ちゃん!大丈夫だから!」

そんな凛子とは逆に、ばっと振り返り今にも飛びかかっていきそうな親友を宥める。

「大丈夫って、腹立たないのあんな事言われて!」

見た事もない剣幕に、細い肩がびくりと跳ねる。美麗がしまったという顔をする。