三人とも口数少なく荷物をまとめ図書室を出る。校門を出て、反対の道へ別れようとした時、煌生が口を開いた。
「ごめん、俺やっぱ勉強見れないや。隣にりんごちゃん居たらどうしたってドキドキしちゃうし、変な事ばっか考えちゃう」
ごめん、と頭を下げる学園の王子様。落ち込む姿さえキラキラと輝いて見える彼は、紛うことなき王子で、多くの女子が、時には男子さえも、憧れる存在である。
「だって好きだから、君の事」
そんな自分とは真逆の魅力的な人間に求められている。こんな全てを兼ね備えたような人が、ちっぽけな自分を好きだと言っている。
再び煌生が告げたその言葉に、凛子は困惑していた。
先程目の前にあったのは、スキを見せたら噛みつかれてしまいそうな、ほんのり夕日色に染まる男の顔だった。この間よりも、その言葉の重みを実感する。唇が触れる寸前の、ふわりと揺れた彼の匂いとか。腕を掴む骨ばった手の、優しい力強さとか。孕んだ欲を押し殺すようにこちらを見つめる、濡れた瞳とか。
好きってそういうこと?恋ってそういうもの?
―良くわからないけど、怖い。良くわからないけど…。
良く、わからないから?
「りんごちゃん」
「ごっ、ごめん、なさい…」
思考がまとまらないまま、突然呼ばれた自分の名前に、思わずそう口に出していた。
「ごめんなさい」
「え」
「ごめんなさいっ!」
頭を下げ踵を返す。高校から駅までの緩やかな下り坂を、全速力で駆け下りる。煌生と美麗が何か叫ぶ声が聞こえたが、振り返らず走り続けた。心の中では繰り返し先程の言葉を唱えていた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
誰に、何を謝っているのかは、走れば走る程わからなくなっていった。
「どうします?走れば余裕で追いつけると思いますけど?」
転びそうになりながらも必死に坂を駆ける凛子を見つめ、親友は言う。
煌生はその言葉に揺らぐ。確かに今なら追いつける。でも追いついたところで何を言うんだ?また彼女の正面に回り込んで、距離を詰めて、怖がらせるのか?
するりと離れた手が脳裏に浮かぶ。目を閉じてふう、と息を吐き出した。
「追いかけないよ」
「・・ふぅん」
「追い詰めるから、追いかけない」
そう言って、まだ遠くに見える彼女の姿を視界から消すように反対側、自身の帰路を向き歩き出す。
美麗はその背中を見つめながら、溜め息まじりの呟きを漏らした。
「それが更に凛子を追い詰めるかもね」
それは誰に聞こえるでもなく、夏の始まりの空に消え入った。
「ごめん、俺やっぱ勉強見れないや。隣にりんごちゃん居たらどうしたってドキドキしちゃうし、変な事ばっか考えちゃう」
ごめん、と頭を下げる学園の王子様。落ち込む姿さえキラキラと輝いて見える彼は、紛うことなき王子で、多くの女子が、時には男子さえも、憧れる存在である。
「だって好きだから、君の事」
そんな自分とは真逆の魅力的な人間に求められている。こんな全てを兼ね備えたような人が、ちっぽけな自分を好きだと言っている。
再び煌生が告げたその言葉に、凛子は困惑していた。
先程目の前にあったのは、スキを見せたら噛みつかれてしまいそうな、ほんのり夕日色に染まる男の顔だった。この間よりも、その言葉の重みを実感する。唇が触れる寸前の、ふわりと揺れた彼の匂いとか。腕を掴む骨ばった手の、優しい力強さとか。孕んだ欲を押し殺すようにこちらを見つめる、濡れた瞳とか。
好きってそういうこと?恋ってそういうもの?
―良くわからないけど、怖い。良くわからないけど…。
良く、わからないから?
「りんごちゃん」
「ごっ、ごめん、なさい…」
思考がまとまらないまま、突然呼ばれた自分の名前に、思わずそう口に出していた。
「ごめんなさい」
「え」
「ごめんなさいっ!」
頭を下げ踵を返す。高校から駅までの緩やかな下り坂を、全速力で駆け下りる。煌生と美麗が何か叫ぶ声が聞こえたが、振り返らず走り続けた。心の中では繰り返し先程の言葉を唱えていた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
誰に、何を謝っているのかは、走れば走る程わからなくなっていった。
「どうします?走れば余裕で追いつけると思いますけど?」
転びそうになりながらも必死に坂を駆ける凛子を見つめ、親友は言う。
煌生はその言葉に揺らぐ。確かに今なら追いつける。でも追いついたところで何を言うんだ?また彼女の正面に回り込んで、距離を詰めて、怖がらせるのか?
するりと離れた手が脳裏に浮かぶ。目を閉じてふう、と息を吐き出した。
「追いかけないよ」
「・・ふぅん」
「追い詰めるから、追いかけない」
そう言って、まだ遠くに見える彼女の姿を視界から消すように反対側、自身の帰路を向き歩き出す。
美麗はその背中を見つめながら、溜め息まじりの呟きを漏らした。
「それが更に凛子を追い詰めるかもね」
それは誰に聞こえるでもなく、夏の始まりの空に消え入った。
