『絶対。俺の事、好きにしてみせるから』

そう言われたあの日から一週間が過ぎた。
凛子の周りに起きた変化は二つある。



「りんごちゃん、今日も可愛い」

うっとりと想い人を見つめる煌生は、その困った顔でさえ嬉しそうに頬を緩める。

「穂高先輩、キモイんですけど」
「そう。まぁ君にどう思われようと別に構わないよ。りんごちゃんの笑顔さえ見れれば」
「いやいや、その笑顔も苦笑いですけどね?私と二人の時の笑顔の方がまじ天使ですからね」
「わかってないよね、美麗ちゃん。りんごちゃんはどんな時でも天使なんです」
「そんなん当たり前過ぎて言うまでもないし。私が言ってるのは天使度ね。てか勝手に美麗ちゃんとか呼ばないでくれます?」

凛子を間に、机を挟んで言い争う二人。こんな光景も日常になりつつある。
そう、あの日から煌生が毎日のように教室へとやって来るようになったのだ。

最初の内は、煌生がやって来る度ざわざわと騒がしくなっていた教室も、彼がいる事にもう慣れたのか、いつもの会話を再開していた。たまに他の教室から生徒が見に来て、わあわあと騒いで去って行く程度だ。

「あ、ねぇりんごちゃん。今日こそ一緒に帰ろうよ。駅前にねぇ、人気のアイス屋のチェーン店が出来たんだって」
「あ、今日は」
「残念、今日は私と図書館でテスト勉強するんですー」
「……」
「…です。ので、すみません…」

実際、他の生徒たちも王子だなんだと騒いでいる場合では無いのかも知れない。高校生になって初めての大きな考査が3日後に迫っていたのだ。
申し訳なさそうに下げられた小さな頭に、煌生がぽんと手を乗せる。

「謝んないでよ。いいのいいの」
「煌生先輩…」
「テスト期間が終わって美麗ちゃんの部活が始まったら一緒に帰ろうねー?」

ぴし、とその手を美麗がはたく。

「ていうか先輩もテスト勉強したらどうですか?」
「え、なになに?仲間に入れてくれるの?」
「ひ、と、り、で!したらどうですかっ」
「あっはは」
「凛子に現抜かすのは結構ですけど、赤点取っても知りませんよ」
「りんごちゃんといられるなら赤点取ってもいいなぁ俺」

目を見つめてにっこりと笑う煌生に、凛子は林檎のように熟れた頬を俯いて隠してしまう。美麗は呆れたと言わんばかりに溜息。