目の前には、綺麗なアーモンドアイとすっと通った鼻、口角の上がった薄すぎない唇。分かり易く形容するならば、芸能人のように整った顔。
それを絶妙な角度で傾げる男。
しかし、その美形だとか高身長であるとかいった情報は、一切凛子の脳に処理されはしない。彼女の頭を占めるのは、こんな近くで顔を見られている、また顔が赤くなっていないだろうか、そんな私を見てこの人は何を思っているだろうか。

―恥ずかしい!

思わず顔を俯けたその時。

「俺のこと、好きなの?」

下に向けた顔を反射的にぱっと上げると、そこには寸分の狂いもない綺麗な顔。凛子の頭はいよいよ思考停止に陥る。目の前の男は何と言ったのか。
好きなの?誰が?誰を?私が、この人を?
勿論、彼女の中にそのような感情は存在しない。するはずがない。初対面なのだから。

「な、あ、な…」

混乱する凛子の口から漏れたのは、震える声だけだった。
そんな彼女の姿を見下ろす男子生徒は、唇の片端をほんの少しだけ持ち上げると、その高い背をゆっくりと屈めた。
もうすぐそこ、30センチ程まで近付いた綺麗過ぎる顔を、凛子はじっと見つめる事しかできなかった。

「だって、」

なんて。

「真っ赤だよ?」

透き通った。

「ほっぺた」

瞳なのか。

「美味しそう。食べちゃいたい」